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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)197号 判決

原告

桂秀光

被告

地方公務員災害補償基金東京都支部長鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士

大山英雄

被告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

和久井孝太郎

鈴木朗

主文

本件訴えのうち、金員の支払を求める部分を棄却し、その余の部分をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  被告らは原告に対し、各自五万円及びこれに対する平成三年九月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告地方公務員災害補償基金東京都支部長が原告に対し、平成元年一二月二一日付けでなした休業補償支給決定及び休業援護金支給決定を取消す。

3  被告東京都が平成三年七月三一日に原告名義の第一勧業銀行茅ケ崎支店預金口座に一〇万九八七九円を送金するためになした決定を取消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠により認められる事実は、次のとおりである。

1  原告は、東京都立大森高等学校定時制で化学を担当し、教務部の分掌を担当している教諭であるところ、昭和五七年五月二四日、東京都品川区立荏原第四中学校で勤務中、同校第三学年生徒により傷害を負わされ、これが公務災害と認定され、被告地方公務員災害補償基金東京都支部長から休業補償給付及び休業援護金の支給を受けてきた(〈証拠略〉、但し、原告と被告東京都との間には争いない。)。

2  そして、原告は被告地方公務員災害補償基金東京都支部長に対し、平成元年六月二九日付けをもって請求日数昭和六二年七月一日から同月三一日までのうち全部休業した日数一日分につき休業補償請求及び休業援護金の申請をなした(争いない。)。

3  被告地方公務員災害補償基金東京都支部長は原告に対し、平成元年一二月二一日付けをもって休業補償金として五五四八円、休業援護金として一八四九円を支給する旨の決定をなし、平成二年一月二六日に原告指定の銀行口座に振込んで支払った(〈証拠略〉)。

4  原告は、任命権者である訴外東京都教育委員会に対し、平成三年三月四日付けをもって東京都職員の公務災害補償等に伴う付加給付に関する条例(昭和四二年一二月二三日条例第一一五号)二条二項に基づき、昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日まで、同六二年七月一日から同月三一日までの各期間中の公務災害及び通勤災害による休業に関して、休業補償付加給付の請求をなし、これに対し、同訴外人は、平成三年六月七日、右条例二条及び四条本文に基づき、一〇万九八七九円の休業補償付加給付の支給を決定し、原告指定の銀行口座に振込んで支払った(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)。

第三争点とこれに対する判断

一  原告は、被告地方公務員災害補償基金東京都支部長のなした前記平成元年一二月二一日付け休業補償支給決定及び休業援護金支給決定は、原告が東京都から給与の支給を受けていたから、地方公務員法二八条により支給決定をなすべきでなかったにもかかわらずこの支給決定をなしたのであるから、違法であり取消されるべきである旨主張する。

原告の右主張は、結局のところ、原告は不当な利得をもたらす決定を受けたからこの取消しを求めるというに帰するところ、右各支給決定は、そもそも原告には何らの不利益を及ぼすものではないし、しかも原告の請求及び申請どおりになされたものであるから、原告には右各支給決定の取消しを求めるにつき利益がない。

なお、東京都立及び東京都の特別区立の学校職員の給与については、学校職員の給与に関する条例(昭和三一年九月二九日条例第六八号)が適用され、この二三条には、職員が公務上の傷病により、地方公務員災害補償法適用を受けて療養のため勤務しない期間については、期末手当及び勤勉手当を除き、給与を支給しないとされているところ、右各支給決定は、右条例の定めを前提としてなされたのであるから(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)、地方公務員法二八条に違反しない。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

二  原告は、被告東京都が原告名義の預金口座に一〇万九八七九円の送金をするためになした決定の取消しを求めている。

原告の求めている右請求は、前記第二の3の訴外東京都教育委員会のなした休業補償付加給付の支給決定の取消しを求めているものと解されるところ、これに関し原告は、右支給決定をなしたのは被告東京都であると主張し、この支給決定は支給要件を欠く休業補償給付及び休業援護金支給に伴うものであるから、支給要件を欠いた違法な決定である旨の主張をしていると善解される。

しかしながら、原告に対する休業補償付加給付の支給決定をなしたのは訴外東京都教育委員会であることは前述したとおりである。

したがって、原告のこの点に関する主張は当事者を誤ったものとして理由がない。

三  原告は、被告地方公務員災害補償基金東京都支部長のなした違法な(事実誤認)右休業補償支給決定及び休業援護金支給決定並びに被告東京都のなした違法な(事実誤認)右休業補償付加給付の支給決定により五万円の損害を被った旨主張する。

しかしながら、被告地方公務員災害補償基金東京都支部長のなした右休業補償支給決定及び休業援護金支給決定には何ら違法の点のないことは前述したとおりであり、また、休業補償付加給付支給決定をなしたのは被告東京都ではなく、訴外東京都教育委員会であることも前述したとおりである。

したがって、原告のこの点に関する主張は、その余の点について判断を進めるまでもなく理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 林豊)

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